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前橋家庭裁判所桐生支部 平成8年(少)860号 決定 1996年12月11日

少年 F・E(1977・3・5生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  A、B及びCと共謀の上、平成8年1月8日午前零時30分ころ、栃木県真岡市○○××番地○○公園内西方正面売店において、D管理にかかる菓子等合計405点(時価合計4万3325円相当)を窃取し

第2  A、E及びFと共謀の上、

1  平成8年6月1日午後11時ころ、群馬県太田市○○××番地の×○○駐車場において、G所有の普通乗用自動車1台(時価10万円相当)窃取し

2  同日午後11時30分ころ、同所××番地先空地において、同人所有の普通乗用自動車1台(時価6万円相当)を窃取し

たものである。

(法令の適用)

各非行事実につき、いずれも刑法60条、235条

(処遇の理由)

1  (1) 少年は、日本国籍を有する父D・S(ブラジル国籍も有するようであるが、これらの国籍に関する法律関係は不分明である。)(以下「父」という。)とブラジル国籍を有する母T・E子(以下「母」という。)の間に、1977年(昭和52年)3月5日、ブラジルで、婚外子として出生し、ブラジル国籍を取得した者である。なお、少年には、やはり父母の婚外子として出生した妹R・E子(以下「妹」という。)がいる。そして、父母は、その後、1989年(平成元年)ころブラジルで婚姻している。

(2) 平成2年9月23日、父は、母、少年及び妹を伴って来日し、本邦で稼働するようになった。少年は、90日間の短期滞在の在留資格で上陸許可を受けたが、同年10月5日、在留期間3年間で日本人の配偶者等への在留資格変更許可を受け、その在留期間経過後の平成5年11月29日、在留期間更新許可申請の特別受理を受けた上、同じ在留資格・在留期間で在留期間更新許可を受けた。しかし、その後、在留期間の更新又は変更の許可を受けないまま在留期限である平成8年10月5日を迎え、そのまま現在に至っている。

(3) 少年は、ブラジルで中学校を中退していたが、一家で来日してからも就学はせず、平成3年初めころから、菓子箱作りの内職等して働くようになり、平成3年9月に○○組という土木会社にアルバイトとして勤め、平成4年2月正社員となり、同年3月には家族と離れて同会社の社宅に居住するようになった。

その後、同年3月、父は、母及び妹とともにブラジルに帰国し、少年のみが本邦に留まった。

同年秋ころ、少年は、次第に友人が増えてきて、友人から条件の良い働き口の話を聞くようになったことから、○○組を辞めて、人材会社を介する等して、食品会社、運送会社等を、半年おき位に転々とするようになった。

(4) その間、平成5年6月ころ、少年は、当時勤めていた○△という運送会社で、やはり同会社に勤めていたH子と知り合い、同女には夫がいたが、同女と男女関係を持つようになり、同女は平成6年6月ころ離婚し、そのころから、少年とH子は同棲するようになった。そして、平成8年1月4日、H子は、少年との間の子を出産し、実家に戻り、以後実家で暮らしている。なお父は、平成5年9月、再来日して、再び本邦で働き始め、平成7年2月には、母も呼び寄せているが、少年とは、平成6年1月ころ1週間程一緒にいただけで、後は別に暮らしている。

(5) 少年は、平成3年9月22日、当時勤めていた○○組の雇主の普通貨物自動車を無断で持ち出し無免許運転をし、平成4年2月7日審判不開始となったが、同年4月17日、再び会社のトラックを無免許運転して、同年6月18日これも審判不開始となり、更に、平成5年9月21日、原動機付自転車の無免許運転をし、この時は、調査官の呼出を3回にわたり無視し、平成6年6月1日、漸くH子と共に裁判所に出頭して、同日不処分となっている。

しかし、その後、少年は、無免許のまま、同年代のブラジル人等の仲間と、ドリフト定行という危険な自動車運転に興ずるようになり、そのような仲間と遊ぶ中で敢行されたのが本件各非行である。

なお、立件されてはいないが、少年は、以前にも、前記非行事実第1と同様の店舗荒らしをしており、また、同第2の非行敢行の際には、別に、Aと自動車部品を物色してナンバープレートを窃取してもいる。さらに、少年は、前記のとおりH子が実家に戻った後(前記非行事実第1の敢行は、その直後である)、同女と同棲していたアパートを追い出されて自動車に寝泊まりし、解体屋から自動車部品を盗み売り払って生活資金の足しにしていたという事実もある。

2  そこで、少年の処遇につき考えるに、本件各非行は、それだけ見れば、特別に重大な非行とまではいえないし、その中での少年の役割も、主導的なものとまではいえず、特に、前記非行事実第2の各非行においては、仲間の自動車盗に助力したというに留まる。また、少年には保護処分歴もない。

しかしながら、少年が、本件各非行に加担するにつき、殆ど抵抗感を示していないことや、前記のとおり、本件各非行だけでなく、他にも窃盗行為が散見されることからすれば、本件各非行の基底をなす少年の非行性は、不良仲間との交友の中で日常的に培われた相当根の深いものであると考えられる。また、少年は、3回の道路交通法違反(無免許運転)による係属歴があるのに、その後も、無免許運転を、日常的に、しかも危険走行に興じ乍ら続けており、さらに、前件では、調査官の呼出になかなか応じようとさえせず、また、今回は、捜査段階で、当初自己の非を認めようとしなかったり、調査時や審判時に、調査官にたしなめられると、逆に食ってかかったりするなどしており、少年には、非行に対する真摯な反省の態度が窺われず、その規範意識は著しく希薄であるといわざるを得ない。そして、このような少年の問題性は、少年が、外国人として13歳時に来日した後、学校に通わずに働き始め、さらに15歳時には、親と離れて暮らし始め、16歳時には有夫の婦と男女関係を持ち、同棲し、子を持ち、その間、職を転々としながら、同国人等の不良仲間と交友するという偏頗な社会生活を送り、健全な社会意識や価値観が形成されなかったために生じてきたものと考えられ、これを矯正するためには相当強力な働きかけが必要である。

しかるところ、前記1(2)の経過等からすれば、少年は、施設に収容されなければ、退去強制処分となる可能性が濃厚であるところ、本国ブラジルには、少年の親戚はいるものの、13歳で同国を出て以来少年と会っていない親戚に、少年の監督を期待するのは無理であるし、父は、調査官の調査や審判において、少年が本国に戻ることになれば、自分も帰って少年を監護する積もりであると述べているが、父母は、平成4年3月(少年15歳時)にブラジルに帰国して以来、父が再来日後の一時期1週間程少年と一緒にいたのを除き、少年と全く別に暮らしてきたのであって、このような父母に、今更少年の適切な監督を期待することも困難である。他方、仮に、少年が、退去強制されなかったとしても、上記のとおり、父母の適切な監督は期待できないし、H子も、将来少年と婚姻したいと考えてはいるものの、現在は実家を出て生活する経済力はなく、実家では少年との婚姻を強硬に反対されているため、少年を引き取ることはできないと考えており、他に少年の身元を引き受けることができるような者は見あたらない。

このような諸事情からすれば、少年は、施設に収容して矯正教育を施す必要が認められる。

3  よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川添利賢)

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